強炭酸水

映画の感想中心。たまに雑記

【今週のお題】お弁当屋奮闘記 ~理不尽な炎~

 

今週のお題「お弁当」

 

ちょっとした思い出話を。

 

私は大学生のとき、某チェーンのお弁当屋でキッチンのアルバイトをしていました。

働いていた店舗はそんなに大きくなかったんですが、住宅街近くの立地もあり、多くのお客さんが来てくれました。

 

大学の授業に割と余裕があったため、ほぼ毎日バイトに入っていたところ、私がお弁当を作るスピードはどんどん上がっていきました。

そのうち、自分が成長していることが楽しくなり、自分なりに「どうやったらもっと速くできるだろうか?」といろいろ工夫しながら作るようになっていきました。

(割と凝り性な性格です)

 

一番得意だったお弁当はのり弁当でした。

安くてボリュームがあり、店でも一番よく出るメニューでした。

のり弁当は具材をご飯に乗せるだけなので、慣れればあっという間に完成します。

バイトを始めた当初は結構時間がかかっていましたが、最終的には20秒くらいで1つを完成できるまでになっていました。

 

お客さんからのり弁当の注文が入ると、全速力で作成にあたり、「のり一丁上がりましたー!」とドヤ顔でカウンターに出していました。

お客さんが「もうできたの!?」とびっくりした顔をしているのを見て、ひとりナルシスに浸るのが楽しみだったんです。

 

そんなある日のことでした。

 

夜の9時頃、先輩バイトと二人で働いていたところ、男性のお客さんが来店しました。

年の頃は50歳くらいで、スーツ姿。お仕事帰りなのか少し疲れた様子でした。

先輩がレジに出て、「ご注文をどうぞ!」と言いますが、男性は悩んでいる様子です。

店の中に他のお客さんは誰もいなかったので、注文に全力で当たることができます。

私はじっと、男性が口を開くのを待っていました。

 

「・・・えーと、のり弁」

 

っっしゃ!!すぐさまプラスチックの容器をつかみ、返す刀でご飯のジャーを開きます。ここで先輩が悠長に「のり一丁でーす!」とか言ってきましたが、全然遅い!ご飯をよそい、重さをはかるためメジャーに乗せると、なんと寸分たがわず規定量ピッタリ。完璧です。ご飯の上に昆布の佃煮と海苔を敷き、白身魚フライとちくわ天をのせます。もちろんフライの間には緑のバランを挟むのも忘れません。最後につけあわせのキンピラとタクアンを添え、ふたを閉めます。ふたに醤油とソースの小袋をテープで貼ったら、完成!

 

とんでもないスピードで完成しました。

体感ですが、20秒は切っていたはずです。

しかも速いだけじゃありません。

海苔は正確にまっすぐ敷かれ、フライとつけあわせの配置も完璧。

美しい・・・。

私の仕事の集大成ともいえる、完璧なのり弁でした。

 

男性を見ると、ちょうど会計が終わってお釣りを受け取ったところでした。

ここで出せば、待ち時間ゼロでお弁当を提供できたことになります。

私は自分の仕事にうっとりしながら、「のり一丁お待たせしましたー!」と作品をカウンターに出しました。

お客さんも喜んでくれるはず・・・だったのですが。

 

「ふざけるな!」

 

なんかね、男性がめちゃくちゃ怒りはじめたんですよ。

さっきまで疲れた顔してたのに、今は顔真っ赤です。目とか血走ってます。

喜んでもらえるとしか思ってなかった私は、その怒号に飛び上がるくらい驚きました。

いや、怒られる理由なんかないはずなんですよ?

待ち時間はゼロだし、つくりも丁寧です。なのになぜ・・・?

 

「そんなに速くできるわけない!それ作り置きの弁当だろ!」

 

とんでもない誤解です。違うんですよ。これは僕の仕事の集大成なんですよ。

毎日毎日のり弁を作る中で極限まで磨き上げた技術の結晶ですよ。

作り置きとか、そんな不正をするはずないじゃないですか。

レジの先輩もフォローしてくれたのですが、男性の怒りはおさまりません。

 

「店長出せ!」

 

こうなったら、僕らバイトでは収拾がつきません。すでに帰宅していた店長を呼び、店まで来てもらいました。

しばらくして、私服姿でやってきた店長が男性から怒鳴られまくっている横で、私と先輩はうなだれているしかありませんでしたよ。

 

結局、作りなおした弁当を受け取って男性は帰っていきました。

改めて事情を話すと、店長(いい人)は「君が悪いんじゃないから・・・」と言ってくれたのですが、その顔は相当げんなりしてました。

そりゃそうですよね。仕事終わって家でゆっくりしてたのに、「弁当が出るのが速すぎる」って理由のクレーム対応をしなければならなかったんですから。

すごく申し訳なかった。

 

それ以来、私は自分の腕前を封印しました。

どんなに手が空いていても、注文に対しては適当にタラタラやって時間をかけるようになりました。

「これ、絶対店のためにもお客さんのためにもならないよな・・・」とは思ったんですが、怖かったんですよ。また同じようなクレームがくるんじゃないかって。

 

それからしばらくしてバイトはやめてしまったんですが、10年以上経った今でも、あの時の怒号を思い出すとげんなりします。